近年、電流と磁化(スピン)が相互に起因する現象を対象とした研究が盛んに行われている。その中で特に、微小な強磁性金属における磁化の電流応答(電流が磁化に与えるトルクや力、それにともなう磁化のダイナミクスなど)についての理論的実験的研究の理解が急速に進んでいる。しかしながら、その逆(反作用)の現象ともいえる、磁化のダイナミクスにおける電流生成に関する研究はまだあまり行われていない。 本研究の目的は、強磁性金属中の空間的に非一様な磁化のダイナミクスによって、電流及びスピン流が生成されるメカニズムを理論的に定式化することである. その為に、場の理論に基づいたグリーン関数法を用いて、非一様な強磁性磁化のダイナミクスにおける電流及びスピン流生成の微視的定式化を行うことである。具体的には、単一の微小な強磁性金属を考え、その磁化配置が磁壁や磁気渦などのように空間的に非一様で、且つ、時間的に変化している場合を想定して、(i)電流及びスピン流がどのようなメカニズムで生成されるのか?(ii)どのような状況で電流(スピン流)の値が量大化されるか? を線形及び非線形応答理論によって定量的に明らかにしていくことである。 本年度は、磁化ダイナミクスによる電流生成に関して、特にスピン・軌道相互作用の影響を解析した。空間的に非一様な磁化が時間的に変化すると、伝導雷子のスピン分極に依存した起電力(スピン起電力)が発生する。これにより、互いに逆向きスピンの伝導雷子は互いに逆方向へ駆動されるがスピン・軌道相互作用により同方向の散乱を受け、正味のホール電流が流れると予想される。本研究ではスキュー散乱及びサイドジャンプ機構を考察し、確かにこれらの二つ機構によってホール電流が生成されることを示した。また、ホール伝導率は、異常ホール伝導率に比べ、伝導電子のスピン分極の逆二乗だけ増加することが明らかになった。
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