1. 層状有機結晶theta-(BEDT-TTF)2CsZn(SCN)4における電子間クーロン相互作用や電荷によるKosterlitz-Thouless転移の可能性を調べるため、有機結晶の誘電率の周波数、温度依存性を詳しく調べた。直流で大きな非線形伝導が生じる領域においても、面内誘電率は直流電圧にほとんど依存しなかった。これはわれわれの提案する、電子ホール対の電場による解離による非線形伝導の機構と矛盾無く説明できる。また観測された大きな誘電率の異方性は、電子間に2次元的なクーロン相互作用が働いていることを示唆している。このような異方的な誘電特性はこれまで注目されてこなかったが、有機結晶の電荷秩序状態を考える上で重要な特徴であると考えている。 2. 集束イオンビームを使って作ったマスクを用いて、theta-(BEDT-TTF)2CsZn(SCN)4の表面に2um程度の微小間隔の電極を作製した。これによって、これまでに比べより高い電場領域における非線形電流電圧特性および磁気抵抗を測定することに成功した。 3. theta-(BEDT-TTF)2CsZn(SCN)4で観測された磁場の方位に依存しない大きな磁気抵抗の起源を解明するために、電子スピン共鳴下での伝導特性を調べることを試みた。このために、0.4Kの低温において40GHzまでのマイクロ波を照射した状態で、電気伝導を精密に測定できるプローブを設計・製作した。さらに、フォトリソグラフィーによってシリコン基板上にコプレナ-導波路を作製し、微小な結晶に効率よくマイクロ波を照射できるようにした。このセットアップを用いて、電子スピン共鳴時の伝導特性変化を現在詳しく調べているところである。
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