(1) 電荷秩序状態における電子-ホール励起の動的特性を調べるため、高速電流アンプとロックインアンプを用いて、これまでより広い周波数範囲(1Hz-100kHz)で誘電率を測定した。theta-(BEDT-TTF)2CsZn(SCN)4の低温極限における1000という大きな面内比誘電率が、電極との界面に起因するみかけ上のものか調べるために、電極間隔の大きく異なる試料を複数測定した。またカーボンペースト以外に金蒸着を用いた電極で測定した。これらの測定結果より、少なくとも1-100kHz程度においては試料自体の誘電率が測定されていることがわかった。非線形伝導、磁気抵抗および誘電率についてまとめた論文がPhys.Rev.B誌に掲載予定である。 (2) theta-(BEDT-TTF)2CsZn(SCN)4で観測された磁場方位に依存しない大きな磁気抵抗を解明するために、電子スピン共鳴下での伝導特性を詳しく調べた。初めはコプレナー導波路を使っていたが、マイクロ波用コネクタに極細金線を取り付けショート終端としその金線近傍に生じるマイクロ波磁場を使って電子スピン共鳴を生じさせるという方法に至った。これにより、電子スピン共鳴下で電気伝導度にシャープなピークを観測できるようになった。周波数は30-60GHz、磁場は1-2T程度で測定した。測定結果の解析から、電子スピン共鳴時にスピン系が吸収するパワーによってピークを定量的に説明できた。この成果は日本物理学会2009年秋季大会において口頭発表した。スピン系の状態変化に伴う伝導特性変化を観測するためには、(a)さらに強いマイクロ波磁場を印加すること、(b)伝導特性を測定し電子スピン共鳴を生じさせる場所をより効率的に冷却することなどが必要である。このためには、基板上に薄い有機結晶を貼り微細加工によって微小電極を作成するのが有効だと考えられ今後の課題である。
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