本研究の目的は、マルチフェロイック物質として知られる三角格子反強磁性体CuFeO_2の磁気秩序誘起強誘電状態の発現の起源を、中性子散乱、放射光X線回折実験によって明らかにすることである。申請者らは平成20年度に非磁性Ga不純物をFeサイトに置換することによって、ゼロ磁場で強誘電状態が実現するCu(FeGa)O_2の単結晶育成に成功した。これまで報告されていたAl不純物誘起強誘電相では強誘電状態が、空間的に不均一に分布したドメインに分けられ、誘電分極の大きさはCuFeO_2のそれより非常に小さいものであった。今回、FeイオンをFeとイオン半径の近いGaを非磁性不純物としたCuFe_<1-x>Ga_xO_2の単結晶を作成し、磁化、比熱、焦電気、中性子散乱の測定を行い、Al希釈とは異なるx-T磁気相図を得た。この結果より、Al希釈の場合にはFeイオンとのイオン半径の違いによって引き起こされる、局所的な格子歪みが交換相互作用のバランスを乱し、強誘電状態の安定性が低いことがわかった。一方Ga希釈の場合は、Feイオンとイオン半径が近いため純粋にFeイオンサイト置換し交換相互作用のパスを切る効果があるため、強誘電状態の安定性が高いものと結論づけられた。平成20年度の本研究成果は、近年注目を集めているマルチフェロイックスの研究に不純物ドープによる強誘電状態の実現という新しい側面を与えることが出来る。さらに、圧力や磁場といった外場を用いなくても強誘電状態を実現させられるため、実験の制限が軽減されより詳細な測定が可能になるという意味でも意義深い。
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