研究概要 |
低次元量子スピン系の物質では,最近,スピンが大きな熱を運ぶことが分かってきており,絶縁性の高熱伝導材料への応用が期待されている.しかし,スピンによる熱伝導機構は,完全には解明されていない.本研究は,このスピンによる熱輸送現象を熱伝導測定以外の方法で観測し,スピンによる熱伝導機構解明への知見を得ることを目的としている.そのため,まず,(1)スピンによる熱伝導が大きい低次元量子スピン系の単結晶試料を作成する.(2)単結晶試料の両端に温度差ついた状態で,ミュオンスピン緩和法の測定が行える装置を作成する.(3)測定を行い,解析し,考察する.以上のような流れで研究を行う. 1.低次元量子スピン系物質の単結晶育成 2本足梯子格子系Ca_9La_5Cu_<24>0_<41>は,150K周辺の温度においてスピンによる熱伝導がフォノンによる熱伝導の10倍以上あり,ほとんどの熱はスピンによって運ばれる.そのため,スピンによる熱輸送現象を観察するために最適な試料である.この物質の単結晶をTSFZ法により育成し,試料評価を行い,単結晶の育成に成功したことを確認した. 2.温度勾配下ミュオンスピン緩和法測定装置の作製 試料の両端に約10Kの温度勾配を付いた状態でミュオンスピン緩和法が行える装置を作製した. 3.Ca_9La_5Cu<24>0_<41>におけるミュオンスピン緩和法の測定 英国にある理研RALにおいて,試料に温度勾配を付けてミュオンスピン緩和法の観測を行った.その結果,温度勾配にあるなしに得られたスペクトルの差が見られなかった.この結果から,交換相互作用が大きいとスピンゆらぎが早くて観測できていない可能性があり,交換相互作用が適度に小さい系で行う必要がある.また,熱が拡散している物質ではなく,弾道的に熱を伝える1次元量子スピン系の物質Sr2V309やSrCuO2のような物質で実験を行う必要があることが分かった.
|