一次元量子多体系の強力な数値計算法である密度行列繰り込み群法の新展開を目指し、今年度は量子絡み合いの観点から二次元系などに発展させた手法であるTTN、MERAなどを含む幾つかの新しいネットワークの可能性を模索して論文にまとめた。今年度の実施計画の内、境界の物理とエンタングルメントについては特に進展があり、周期境界条件と開いた境界条件との両方において同じ基底状態を得ることが出来るサイン二乗変形(SSD)の原理について知見を得て、論文にまとめた。また、幾何学的位相においては、エンタングルドペアであるダイマーやスピンシングレットだけでなく、トライマーやプラケットシングレットなどへの拡張に成功し、論文にまとめた。 密度行列繰り込み群、量子絡み合い、幾何学的位相という三つのキーワードによる本研究は、研究期間全体を通じて、物性理論における「境界」の重要性に迫る事となった。具体例の一つは、密度行列繰り込み群で用いられる一様行列積状態においてしばしば忘れられる、境界を表現する行列(境界行列)の重要性である。ベーテ仮説法を用いた議論の中で、厳密解を与える行列積状態を具体的に書き下した事は大きな意義を持っている。その中で、境界行列は物理的には粒子数保存則を満たすために重要であったことが明らかになった。境界行列は数理物理的にも興味深く、古くから知られている二次元古典統計のモデルのドメイン・ウォール境界条件(DWBC)に対応している事も分かった。また副産物として、格子模型だけでなく連続空間における行列積状態の厳密な表現を得た事は大きな意義を持っている。本研究で得られた知見を基した、連続空間あるいは熱力学極限における境界の研究が今後期待できる。
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