1.[本研究課題の目的]:本研究課題(「ナノ物質の電子構造とキャパシタンス」)の目的は、(1)ナノ・キャパシタの電子構造と特性を第一原理的に計算する計算手法を確立すること、(2)その手法を用いて実際のナノ構造に関する計算を行い、広くナノ・デバイスの設計指針となる普遍的な物理と知見を抽出すること、(3)最終目標としては、意図する特性を備えたキャパシタの理論的設計とシミュレーションによる検証を行うこと、である。2.「平成21年度の研究内容」:申請した研究実施計画に従い、「ナノキャパシタにおけるスピン自由度の研究」を行った。また、「原子空孔等の欠陥が、キャパシタの特性に及ぼす影響の研究」を行った。3.[具体的内容と結果、重要性]:ある種の格子欠陥を含むカーボンナノチューブを電極としたキャパシタに、正方向バイアスを印加した時、キャパシタ電極に電荷が蓄積されると同時に、格子欠陥がスピン分極することを見出した。一方、負方向のバイアスを印加した場合には、スピンの分極は誘起されなかった。これらの結果は、カーボンナノチューブのミクロな電子構造(band st ructure)から理解可能である。また、Pd薄膜を電極とした場合には、欠陥が存在していない場合においてもバイアスの印加でスピン分極が誘起されることを見出した。今回見出されたこれらの「スピン・キャパシタ」は、スピントロニクスへの応用が期待できるという点において、重要である。
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