研究概要 |
スピングラス模型に備わっている対称性を駆使して、相転移にまつわる現象を解析すること、また非自明な計算方法を確立することを本研究課題では目指している.最終年度である本年度は、双対変換と繰り込み群を駆使した解析方法に加えて、非平衡過程を通じた平衡状態の解析手段としてJarzynski等式の利用法の両者を実践的に応用する研究を行った.前者については、近年盛んに研究が行われているカラー符号の誤り訂正限界に加えて、キュービットの欠損に対応した誤り訂正方法が提案された事を受けて、その限界について議論をする事に成功した.量子情報の分野では、この性能限界を議論する理論手法は確立しておらず、数値計算による評価でするほかなかった.異分野である物性基礎論、統計力学側からこの問題に関する解析的解決法を提案した事の意義は非常に大きい.また様々な訂正方法に対して、網羅的に結果を短時間で導出できるというのも強みである.量子情報分野での急速な発展のスピードに追いつける解析手段としても非常に強みがある.今後量子情報分野からの接近により、理論の背後に隠されている構造を掴み、より応用に利いた発展方向を確立できる可能性が非常に大きい,後者についてはポピュレーション型のモンテカルロ法を利用する事により、実際の運用にまで発展させて、その困難な部分と解決方法について現段階で研究続行中である。ポピュレーション型の数値計算方法に関しては、最近の数値計算環境の変化に対応して並列計算機の利用をもってすれば容易いこともあり、大規模化によるブレークスルーも期待できる.理論の本質部分に関しては、スピングラス理論独特の配位平均の性質に関係しており、数十年の間、考えてこられなかった部分の再考を促している.そのためこの解決による分野全体のパラダイムを変化させる可能性がある.
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