近年になり、金属-非金属転移を起こす流体(液体)系では、その転移領域で特徴的なスローダイナミクスを呈することが実験的に明らかとなってきた。本研究では、このようなダイナミクスを「動的ゆらぎ」として捉え、ゆらぎの観点から金属-非金属転移の相転移としての位置づけを行うことを試みる。 今年度は、最終的に包括的な議論を行う上で重要となる、以下2つの参照系を対象として、大型放射光施設SPring-8での測定を行った。 1. セレンーテルル混合液体系の金属-非金属転移領域における静的ゆらぎ このようなゆらぎは既に25年以上前に予想され、これまでいくつかのグループが観測を試みていたが、信頼の置けるデータは得られていなかった。今回セレン50-テルル50混合系について広い温度(<1000℃)圧力(<1800気圧)範囲でのX線小角散乱測定を行い、転移に伴うメゾスケールの静的密度ゆらぎの変化の直接観測に初めて成功した。今回得られた密度ゆらぎの大きさは、超音波速度の変化から間接的に見積もられていたものよりはるかに小さく、このようなゆらぎは「静的」と「動的」で大きく異なる側面を持つことが明らかとなった。 2. 超臨界水のダイナミクス 非弾性X線散乱測定を行い、超臨界水の高周波数ダイナミクスを調べた。気体-液体臨界点に近づくにつれ、本測定から得られる「高周波数音速」と(超音波測定から得られる)マクロな音速との相違(=「正の分散」)が次第に大きくなることが確認され、この「正の分散」が臨界ゆらぎを特徴づける一つのパラメータと成りうることが分かった。
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