本研究課題は(i)量子アニーリングの有効性を基本的な模型を用いて明らかにし、(ii)スピングラス模型に応用することを目的としている。それに関して次のような成果をあげた。 (i) 量子アニーリングは古典的なシミュレーティッドアニーリングからの類推により提案された最適化手法である。したがって両者の比較により量子アニーリングの有効性を示すことは重要である。筆者は当該年度にランダムIsing模型に横磁場と横相互作用が加わった時の有効性を調べることを計画した。しかし、Kibble-Zurekの議論を用いて量子アニーリングとシミュレーティッドアニーリングを同じ枠組みで比較できることに気付き、計画とは多少異なる角度から研究を行った。その結果、1次元のランダムIsing模型において量子アニーリングの方がシミュレーティッドアニーリングよりも有効であることが解析的に明らかとなった。数値計算以外の方法を用いて両者の相対的な有効性を明確にしたのは本研究が初めてである。 (ii) 筆者らはクラスター更新を取り入れた量子モンテカルロ法を用いて量子アニーリングとシミュレーティッドアニーリングを同時に行う「量子熱的アニーリング」を2次元スピングラス模型に適用した。その結果、「量子熱的アニーリング」の性質をシミュレーションによって明らかにすることができた。筆者らがこの研究で用いた計算手法は有限温度・横磁場中のスピングラスのシミュレーションを可能にする。研究計画にある横磁場スピングラスの平衡状態の研究にはその手法が欠かせない。現時点では横磁場スピングラスの平衡状態は調べきれていないが、当該年度の研究により計算手法が確立された。
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