本年度の主な研究業績は、日本の市という行政分の人口分布の時間変化を調べ、モデル化したことである。市の人口分布は様々な国で調べられており、横軸に人口、縦軸に順位を取ったランクサイズ分布(ヒストグラムの累積分布に等しい)はベき指数-1のベき分布に従うという指摘がなされてきた。このことはジップ則と呼ばれ、市のランクサイズ分布のみならず固体の破壊や企業の収入等様々な自然・社会現象で観測される。戦後の国勢調査データの解析から市のランクサイズ分布のベき指数は時代と共に変化し、更にジップ則が成立する期間は30年程度だということが明らかになった。また戦後2回起こった市町村大合併が、市のランクサイズ分布におけるジップ則の破れに関与することがわかった。更にエージェントベースモデルに基づく人口移動モデルを構築し、市のランクサイズ分布に見られるジップ則の再現、更に市町村合併による市のべき指数の時間変化を定性的に説明する事に成功した。これらの結果は論文にまとめ、日本物理学会欧文誌に掲載された。また市町村合併の影響がない場合のベき指数の変化を調べた。これは日本統計協会発行の『市区町村人口の長期系列』に基づいたテータ解析であり、平成12年10月1目の市町村区分で、市の人口分布が戦後どのように変化するかを調べた物である。この解析により市町村合併がない場合はベき指数は単調に-1に近づき、ジップ則を回復することがわかった。以上の結果は国際会議Complex'2009にてポスター発表を行い、プロシーディングス(査読有)に掲載された。また最近25年の市町村全体の人口分布と、大正9年以降の人口密度分布の変化とその特徴を調べ、日本物理学会第64回年次大会にて発表を行った。この成果は来年度に論文にまとめる予定である。
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