本年度の研究成果は以下の2点にまとめられる。 (1)人口密度の空間および統計分布の時間変化 (2)人口分布やその他の系における対数正規分布の出現に関する理論的考察 (1)に関して:国勢調査のデータに基づき、日本の人口密度の空間分布と統計分布を調べた。日本全国を3228(1925年の自治体数)の自治体に区分し、それぞれにおける人口を面積で割ったものを人口密度としてその空間分布を調べた。1925年から2000年のデータを調べた結果、関東圏、中京圏、近畿圏の中心となる都市に人口が集中し、更に徐々に近隣の都市に人口が集まってくる様子がわかった。更に人口統計分布を調べると、1940年頃に対数正規分布に近い人口密度分布が、高度経済成長期の都市への人口集中によってテール部分がずれてくること、更に12000[人/km^2]が上限値となり、中規模の都市への人口移動によって対数正規分布から大きくずれることがわかった。このことから、大都市への人口集中や人口密度の上限の影響で、人口密度の増え方が単純な乗算過程から変化してきていることが示唆される。 (2)に関して:人口や人口密度の統計分布にしばしば見られる対数正規分布の出現について理論的な考察を行った。対数正規分布は人口統計分布だけでなく、様々な自然現象や経済現象にも観測される。確率的なノイズを含む微分方程式に基づき、そのノイズの強さによって、最終的な物理量の分布が対数正規分布になるか正規分布になるかが決まることを示した。その考察に基づき、人口統計分布以外にも、児童の身長分布、宇宙空間の物質の密度揺らぎの分布等の具体的な物理例に見られる対数正規分布の出現に関する考察を行った。このような統計分布の出現メカニズムと具体的な例の比較は人口問題を含む社会現象の解析においても有用だと思われる。
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