研究概要 |
1.非対称間欠性時系列の解析法の開発 前年まで我々が取り組んできた間欠性時系列の解析では,平均値まわりでの対称な変動を対象としてきた.しかし,生体信号や経済時系列では,正負方向の変動を生むメカニズムが異なることも考えられるため,これまでの方法では,そのような非対称性を示す時系列の詳細な特徴付けは不可能であった.そこで我々は,中央値を代表値として正負方向の非対称性が見られる間欠性ゆらぎの解析法を開発した.我々の方法では,非対称非ガウス分布のみで特徴付けられる確率過程だけでなく,正負方向の変動幅の相関の違いにも注目し,その分析法を新たに導入した. また,このような非対称間欠性を生む離散確率過程についても考案した.この確率過程は,乱流の現象論的モデルとして提案されている確率カスケード過程を一般化したもので,中央値まわりの正負方向で別々のカスケード過程を仮定している.この過程で理論的に予言される値が,我々の導入した解析法で正しく推定されることを確かめた. 2.心拍変動の多重スケール解析 人の心拍数は主に自律神経系からの制御を受け絶えず変動している.これまで,自律神経系機能の異常と心臓突然死との関連性が知られており,心拍変動解析を通じた自律神経機能の評価が心疾患の予後予測に有効であることが示されてきた.我々は,心拍変動の解析に,非線形非平衡現象を特徴付けるための指標を応用した.生体システムには多様な生理学的機序が働くため,心拍変動には時間スケールの異なる複数のダイナミクスが反映されていると予想される.そこで,単に指標を推定するだけでなく,心拍変動時系列の粗視化を導入し,心拍変動に見られる特徴的時間スケールが同定できる多重スケール解析法を考案した. この方法を慢性心房細動などの時系列に応用し,心臓突然死や脳梗塞の予測因子である可能性がある時間スケールと指標を見出した.今後,より大規模なデータベースに我々の開発した方法を適用することで,死亡リスクの予測に役立つ新たな情報を抽出できる可能性を示唆した.
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