本年度も、交付申請書の「研究の目的」で挙げた3つの目標のうち、「(C)可逆な測定における情報量と状態変化の関係」を重点的に考察した。 一般に、量子系を測定すると、その系の状態についての情報が得られるが、測定の反作用でその状態は別の状態へと変化してしまう。このような状態変化は非可逆であると以前は信じられていたが、実際には可逆な測定もあることが今では知られている。本研究では、量子系の測定で得られる情報量とそれに伴う状態変化の関係について定量的な解析を行い、特に測定が可逆かどうかによってどのような違いが生じるのかを考察した。 具体的には、光子数の測定において、(1)通常の非可逆な測定、(2)可逆な測定、(3)非可逆かつ量子非破壊な測定、(4)可逆かつ量子非破壌な測定、(5)射影測定の5種類の測定について解析を行った。その結果、得られる情報量という点では、測定(1)、(3)、(5)が等しく最大であり、次いで(4)、(2)の順番に大きいことがわかった。これは、測定を可逆に行った場合は、非可逆に行った場合よりも、得られる情報が少なくなってしまうということを意味している。一方、測定による状態の変化という点では、測定(4)が最も少なく、次いで(3)と(5)が等しく、(1)、(2)の順番に小さいことがわかった。これは、可逆な測定ほど情報量が減少するので状態変化も小さいであろうという直観的な予想に反する結果である。特に、測定(2)は情報量が最も少なく、状態変化は最も大きいという、測定としては最も効率の悪いものになっている。その一方で、測定(4)は状態変化が最小であるため、状態変化に対する情報量の比という意味では、この5つの測定中で最も効率の良いものになっている。 以上のような結果をより一般化して考察することは、量子系から情報を取得するときに、最も効率の良い測定というものを見つけ出すためのヒントになると考えられる。
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