研究概要 |
本研究の目標は,高次高調波という新しい光を用い,物性物理学の未踏領域における新現象を見出すことである.本年度は,本研究において「道具」の位置づけである高次高調波の制御性を高める研究を重点的に行った. 1.高次高調波のスペクトル(光子エネルギー分布)の制御 物質の光パルスに対する応答は,一般にその光子のエネルギーに強<依存し,また,超高速分光学の観点からは,その光子のエネルギー分布は,光パルスの時間幅,つまり時間分解能と密接な関係がある.私は,高次高調波発生の非線形媒質に混合気体を用いるという新しい手法を導入し,高次高調波のスペクトルを発生段階で直接自由に制御する方法を考案・実証した.本手法は,通常のフィルターを用いた手法とは違い高次高調波光子数を減らさないで済むため,物性研究への応用には画期的な方法である.本年度はさらに混合気体の成分に様々な分子を用いて高調波のスペクトルの変化を観測することにより,高調波パルスのスペクトル位相,即ち高調波パルスの時間波形とその分子の構造が密接に関連することを証明した. 2.高次高調波の発生メカニズム利用した超高速分光 1により得られた知見を逆問題として解くことにより,様々な分子の構造のダイナミクスをアト秒の精度で追跡できることを示した.さらに,個々の実験から得られた結果を数学の理論(群論)を用いて統一的に解釈することにより,この新しい分光法で観測することができる物質の振動・回転モードの対称性に一定の規則性があることを見出し,選択則として一般化した.
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