生物の細胞内は、分子機械を含む多種多様な分子で混雑した、不均一な環境である。本研究の目的は、このような環境での反応拡散過程が、通常の反応拡散系(偏微分方程式系)の振舞いとどう異なるかを明らかにすることである。 前年度には、分子機械を大きさの変化する粒子として表現することにより、分子間の力学的な相互作用が反応に及ぼす影響を表現する簡単なモデルを構成した。各粒子は1個の状態変数(位相)を持ち、粒径が状態変数に依存する。 本年度は、これを基にモデルを拡張した。細胞内部や膜面上での分子の混雑の影響に加え、酵素反応など分子機械の機能と分子運動との関連にも注目し、下記4項目の研究を行った。項目1・2の成果については学会等で発表した。 1. 粒子の混雑の影響に関して、引き続き様々な条件でシミュレーションと解析を行った。系の密度、粒子の移動度、状態変数のゆらぎの大きさを変化させた場合に、状態変数の時空間パターンや反応速度が相転移的に変化することを、簡単な例で示した。 2. 粒子間の反応を陽に導入してモデルを拡張した。酵素反応を想定し、状態変数に依存した基質結合と生成物解離、並びに、制御物質の結合による反応確率の変化を導入した。以前の研究では排除体積を考慮していなかったが、本研究で、分子を粒子として扱うことで、隣接分子による障壁の効果が現れた。詳細な解析は次年度以降の課題である。 3. 前項に関連して、以前の研究の成果である、酵素反応を含む反応拡散系におけるゆらぎの影響について再考し、新たな解析を加えて明確化を図った。 4. 演算の高速化のため、GPU計算に適したアルゴリズムの検討と実装を行った。現時点では、系が単純でデータ当たりの計算量が小さいため効果が得られていないが、より複雑な反応ネットワークでは研究の効率化が期待できる。
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