生体に見られる諸現象を反応拡散系としてモデル化した研究は数多い。ところが、細胞内環境を反応拡散系としてとらえた場合、 ・存在量・速度の大きく異なる多種多様な成分・反応が関与しており、時に少数個の分子しか存在しない成分も含まれる。 ・生体高分子は構造の異なる複数の状態を取りえ、反応が状態に左右される場合がある。 ・膜や細胞骨格・能動輸送の存在や、分子が混み合った(充填率の高い)環境のために、分子の移動が必ずしも通常の拡散に従わない。 といった特徴がある。それゆえ、細胞内の過程には、一般的な反応拡散方程式(偏微分方程式)を用いたモデリングが有効とは限らない。これまでの手法で表現されない重要な現象が存在する可能性がある。 本研究では、反応拡散系に上のような特徴が加わった場合に、通常の反応拡散系とはどのような違いが生ずるか、反応速度の異常や特異な時空間パターンが見られないか、明らかにすることを目的とする。これにより、細胞内での情報伝達やパターン形成過程をモデル化しそのメカニズムを解明することに寄与すると期待される。
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