研究概要 |
宮城県牡鹿半島において,口径約500m,平均間隔約150mの7台の強震計からなる稠密アレイ観測を実施しているが,本年度も継続して実施し,良質の地震観測記録が蓄積された.しかし,実施計画に記したように,それらの記録に地震波干渉法を適用してグリーン関数を抽出するまでには至らなかった. 実施計画の通り,Kik-netデータに干渉法を適用することを念頭に入れ,それに即した地震波干渉法の理論モデルの構築を試みた.具体的には,水平成層構造の地表と地中にある観測点に,スカラー(SH)平面波が斜め下方から入射する場合の証明を行った.その結果,2観測点間の波動場の相互相関関数の時間積分が,グリーン関数と震源時間関数との畳みこみに比例することが明らかになった.その際,スローネスが帯域制限されること,鉛直方向のスローネスが重みとしてかかることが重要である.この研究により,Nakahara(2006, Geophys. J. Int.)による鉛直下方入射の場合の証明を拡張できたことになる. 地震波干渉法の成立条件として,エネルギー等分配あるいはエネルギーの安定化と呼ばれる状態がある.どの程度の時間でこの状態へ遷移するのかについて,実施計画の通り,近地地震の波形記録の粒子軌跡を用いて検討した.その結果,直達S波走時の1.5倍程度の経過時間でエネルギーの安定化に達していることが明らかになった.今後,このエネルギー安定化状態は,浅部地盤の地震波速度構造の推定に利用できるものと考えている. 実施計画には記していないが,微動の連続記録に地震波干渉法を適用することにより,浅部地盤構造の時間変化を常時監視する手法を,2004年新潟県中越地震の震源域付近にある6観測点に適用した.その結果,本震の発生に伴い,全観測点で,最大0.5%程度の地震波速度低下が検出された.その要因としては,強震動による浅部地盤の損傷や断層運動による周囲の破砕などが考えられる.この成果は,アメリカ地球物理学会誌に掲載された.
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