研究課題
平成22年度では、クレーター形成に伴う衝突放出物の速度分布に対する標的物性効果について調べた。前年度に導入した小型衝突銃を用いて球形弾丸を100-200m/sに加速し、標的(ソーダライムガラスビーズ)に衝突させ、放出される物質の速度測定を行った。クレーター形成に伴う衝突放出物が、標的上方に照射されているシート状レーザー光と交差する際の散乱光を、高速ビデオカメラを用いて撮像することで、放出速度の時間および空間分布を測定した。その結果、放出物の速度は衝突開始から時間に対してべき乗則に従って減少すること、また衝突点からの直線距離に対してもべき乗則で減衰することを明らかにした。また、標的物性値(空隙率、内部摩擦角)が異なる粉体標的を用いて同測定を繰り返した結果、放出速度の距離および時間に対する減衰率も物性依存性を示すことがわかった。これらの結果を基にして、Zモデル(掘削流に対する流体近似モデル)との比較および21年度までに行ったレーザー光を用いた垂直および斜め衝突での掘削流の時間発展に関する測定結果とを組み合わせて、クレーター形成過程における掘削・放出・堆積過程における、標的物性効果を考慮した経験的モデルの導出を行った。次に、実際の天体クレーターへの応用として、月周回衛星SELENE(かぐや)搭載の連続分光測定器スペクトルプロファイラ(SP)による結果との比較を行った。月面衝突クレーター周辺の堆積物に対するSPによる連続分光データの空間分布について、本研究で得られた経験モデル式を応用することで、特定スペクトルを持つ物質の掘削深さと堆積距離との関係の推定を行った。これらの比較から、モデル式で用いられる変数の最適化を行い、最終的に、衝突クレーターに対する物性効果を考慮したスケーリング式の定式化を行った。
すべて 2010
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Nature Geoscience
巻: 3 ページ: 533-536