研究概要 |
大地震発生時には,断層が高速(>1m/s)ですべるために,断層面上で急激な摩擦発熱が生じる.この発熱による断層内物質の物理化学特性の劇的な変化に伴って,断層が著しく弱くなることが近年明らかとなってきた.しかし,このような地震時の動的すべり現象を検証するための摩擦実験は,技術的な問題から含水条件下でおこなうことがこれまで困難であった.そこで本研究では,含水条件下で地震性の高速すべり運動を再現できるように試験機を改良して,動的すべり挙動に対する(1)水の力学的な効果(摩擦発熱に伴う間隙水圧の変動)と,(2)水の化学的な効果(摩擦発熱によって促進される断層物質と水の固液間化学反応)を実験的に明らかにすることを試みた. 本年度は,昨年度作製した高速摩擦試験機用の小型圧力容器の改良をおこない,含水条件下において断層が高速ですべる時の力学的性質,間隙水の化学組成の変化,断層面から放出されるガス,間隙水圧および温度を系統的に測定できるシステムを完成させ,実験データを得ることに成功した.その結果,(1)摩擦発熱に起因する間隙水圧の上昇に伴って断層の強度が低下すること(有効圧の法則が高速すべり時にも適応可能であること),(2)すべり速度1.6m/s,垂直応力1.0MPa,すべり時間5secという条件(モーメントマグニチュードに換算すると-4以下)においても,間隙流体の主要・微量化学組成が著しく変化すること,(3)摩擦すべり仕事と水素の発生量の相関を天然に外挿すると,一年間に地球上のMw<4の地震によって発生する水素量が4x10^9mol程度(水素を餌とする地下生物圏に影響を与える可能性を示唆)になることがわかった.今後,再現実験をおこない適時論文として公表していく予定である.
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