本課題の最終年度となる平成22年度は、研究成果をまとめた多くの発表を行うことができた。以下では交付申請書の「研究の目的」に掲げた2点を中心に紹介する。 1.低気圧のマルチスケール現象 熱帯低気圧の発生環境を変動させる要因として、先行研究では季節進行と季節内振動という異なるスケールの現象が指摘されてきた。両者は別々に議論されることが多かったが、本研究では両者の寄与の度合いを定量的に示す手法を考案した。これをベンガル湾の熱帯低気圧に適用したところ、季節内振動が熱帯低気圧の発生環境に及ぼす役割は季節によって異なることを明らかにした。この研究は「研究実施計画」に記した通りに遂行され、現在はJournal of Climate誌に投稿中である。この他に、30日間の全球雲解像シミュレーションを用い、低気圧の全球分布、低気圧間の相互作用、低気圧内部の対流活動というマルチスケールの現象を解析した研究を"Cyclones"(Nova Science Publishers)という査読付き図書に投稿準備中である。 2.低気圧の発生分布に関する包括的な理解 上記の熱帯低気圧(台風・ハリケーン・サイクロン)に関する研究の他に、中緯度の温帯低気圧や高緯度のポーラーロウの研究も併せて行い、地球上の低気圧の包括的な理解を深めた。具体的には気候変動に伴う低気圧の発生分布の変化や、環境場による低気圧の構造やメカニズムの違いについて解析を行った。これらに関しては、本課題でメインに用いた全球雲解像モデルの他にも、全球低解像モデル、領域モデル、観測データなどを適時用いて、それぞれのメリットを活用しながら遂行した。
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