研究概要 |
北太平洋亜熱帯前線は, 亜熱帯反流と呼ばれる東向きの表層海流を伴っており, 亜熱帯循環系上層の特徴的な構造の一つであるが, 亜熱帯前線の時間変動については, ほとんど研究されていない. 最近, 我々の研究により, 亜熱帯反流域に, 局所的に低気圧性の回転を示す海上風が春季に現れることがわかった. この低気圧性の風は, 亜熱帯海面水温前線が大気へ及ぼす影響によって形成される. 本研究では, 低気圧性の風に着目して, 亜熱帯反流(亜熱帯前線)の時間変動のメカニズムを調査した. 過去14年間の長期の人工衛星資料と大気の再解析資料を用いて, 海面水温前線, 海上風, 亜熱帯反流の季節変動及び年々変動を調べた. 亜熱帯反流は, 明瞭な季節変動を示し, 5-6月に最も強化することがわかった. 一方, 低気圧性の風応力カールは, 海面水温前線が強化する5月に最も顕著に見られ, 亜熱帯反流の強化に1ヶ月ほど先行する.年々の時間スケールでも大きな変動が見られ, 相関解析を行った結果, 低気圧性の風応力カールは, 海面水温前線が強い年に形成され, この風応力カールしにより海面高度の低下が起こり, これに伴い亜熱帯反流が強化することが示された。アルゴフロートの資料を用いて海洋内部の構造を調べたところ, 低気圧性カールが強い年には, 主水温躍層が全体的に上昇しており, 低気圧性カールに伴うエクマンパンピングによって海面高度の低下が起こることがわかった. さらに, コンポジット解析を行った結果, 亜熱帯反流の5-6月の強化は, 低気圧性カールが顕著に見られる年のみに起こり, 低気圧性の風応力カールが春季の亜熱帯反流の強化の主要因であることがわかった. 今後は, 亜熱帯反流とモード水との関係についても調査を進める予定である.
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