研究概要 |
前年度は季節および年々の時間スケールについて解析を行ない亜熱帯前線および亜熱帯反流の時間変動と局所的な風系との関係を指摘した.今年度は,時間スケールのより長い長期の変化傾向に注目して,亜熱帯前線の変化とその要因について調査した.解析には,大気海洋結合数値モデルによる20世紀気候再現シミュレーションと温室効果ガス排出シナリオA1Bに基づく21世紀予測シミュレーションの計算結果を用いて,地球温暖化時の亜熱帯前線の変化を調べた.数値モデルに再現された亜熱帯前線は,海水密度の鉛直一様性で特徴付けられるモード水の南側に沿って分布し,上部水温躍層の北向きの浅化に関係し,観測資料に見られる前線と良く一致する特徴を持つ.この亜熱帯前線は,温暖化時に弱化し,亜熱帯前線に伴う亜熱帯反流も弱くなることがわかった.前線の弱化は,特に亜熱帯循環系中央部の東亜熱帯前線で顕著に見られ,前線北側に分布する中央モード水の高渦位化によって起こることが明らかになった.モード水の高渦位化により上部水温躍層の南北勾配が弱くなり,亜熱帯前線の弱化が起こる.さらに,モード水の高渦位化は,モード水の循環自体を変化させ,その結果,低渦位水が前線北側に集まりにくくなるという副次的な効果も,前線弱化の一つの要因であることが示唆された.中央モード水は,日本東方沖の冬季の深い表層混合層で形成される.温暖化時には冬季混合層が浅化し,これにより中央モード水の高渦位化が起こることが明らかになった.さらに,混合層の浅化は,冬季の海面冷却の弱化に起因していて,これは亜熱帯循環系北西部の偏西風が弱くなることにより起こることが示唆された.本研究の結果は,モード水が渦位の輸送を通して,海洋の密度構造と表層海流の変化を生じさせうることを示しており,従来の海洋学の認識を大きく変えるものと考えられる.
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