本年度は3年計画の初年度にあたり、解析に用いる10年間(1998-2007)の熱帯降雨観測衛星(TRMM)データの確保をまず完了した。そのデータに基づき、ケルビン波・赤道ロスビー波・MJO各々に付随する対流雲発達過程の解析を進めた。TRMMデータから同定された浅い積雲・雄大積雲・深い対流雲・深い層状雲が、大規模赤道波に伴い発達する過程が明らかにされたと共に、海面水温・可降水量・水蒸気収束場といった環境場についても衛星観測データや再解析データを用いた解析を実行し、対流雲発達過程に伴う力学・熱力学的進化の観測的描像をまとめた。詳しくは以下に述べる。 既存の研究から知られているように、MJOの発達に伴い、浅い積雲から深い対流雲まで降水雲が深化していく様子が確認されたが、赤道ロスビー波については一貫した対流雲の深化は認められなかった。ケルビン波やMJOの対流活動を活発化させる物理機構として、伝播の前方に位置する水蒸気収束が大気を不安定化させる摩擦収束理論が提案されている。本研究の結果では、ケルビン波については理論的に予測されるとおり摩擦収束が確認されたが、MJOに付随する摩擦収束は伝播に先行せず、むしろ対流活発期と同期していた。水蒸気収束が最も顕著な領域も、理論的に予測されるような赤道上ではなく、10度ほど極方向に離れた領域であることが明らかになった。更なる解析の結果、MJOの対流活発化においてはケルビン波対流加熱に対する大気応答として対流圏中層の水蒸気が赤道域から極方向に輸送され、その結果赤道から離れた領域で加湿が起こることが示唆された。さらに、加湿領域に赤道ロスビー波が強い下層収束場を伴い到着した際に対流バーストが誘起され、これがMJO対流活発期を形成するという仮説を提案した。
|