前年度から進めてきた熱帯対流雲の衛星観測研究においては、雲・風・湿度といった大気場の解析が主体であり、海洋との相互作用については対象外としてきた。一方、熱帯大気波動の駆動機構においては、大気海面相互作用が重要な役割を果たすことはよく知られた事実である。そこで平成21年度は、衛星観測をもとに海洋混合層の熱収支を解析する方法論を構築し、東太平洋の赤道収束帯(ITCZ)の形成・維持機構を明らかにする研究を行った。前年度でも解析に活用した熱帯降雨観測衛星(TRMM)データに加え、衛星搭載散乱計による海上風速データなどを駆使し、さまざまな海面熱フラックスを広域・長期間(8年)にわたり導出することに成功した。その結果をもとに、通常赤道の北側だけに存在する熱帯東太平洋のITCZが3月から4月にかけての限定的な期間に限り南半球側にも発達する要因を同定した。本年度の研究から得られた知見を以下に要約する。 1. 東太平洋において、赤道の南側では収束帯の存在しない12月ごろから海面水温が徐々に上昇を始めており、それに続いて水蒸気収束、浅い対流雲の発達といった段階的な発達を経て3月に深い対流群が活発化することを見出した。初期段階の海面水温上昇の要因についてさらに解析を進めた。 2. 海面熱フラックス推定値をもとに海面水温を数値計算し観測値と比較したところ、南半球ITCZの発達に決定的に寄与する要因は、太陽放射の季節変化であることを見出した。 3. これらの要因のほか、南東太平洋に典型的な下層雲の放射影響についても評価を行った。 さらに、今年度確立したデータ解析を他領域に拡張する研究が現在進行中である。
|