ユーラシア大陸上の寒気蓄積過程におけるシベリア高気圧の存在と、北極圏の寒気の存在は要となっている。その相対的な重要性を確認する目的で、チベット高原を除去した気候モデル実験を行った結果、チベット高原の上昇に伴うシベリア高気圧の強調と東アジアのモンスーン季節進行が顕在化するプロセスが明らかになった。同様に、北極圏における寒気蓄積の背景場を形成する要因の一つとしてグリーンランドの氷床を除去する実験を行った。また、こうした寒気の移流プロセスが現在の温暖化予測実験に用いられる気候モデル内で再現されているかを、IPCC-AR4 20世紀再現モデル実験の解析を通じて検証した。 また、観測的データを用いた研究として、2009-2010年の冬は特に顕著な寒気蓄積・流出の事例年となったことから、本年の冬における寒気移流について集中的に研究を行った。その結果、日本における冬季の平均気温は平年に対して暖冬傾向であったにも関わらず、強い寒気が繰り返しやってくる寒暖の差が激しい冬であったことが示された。その原因として、負の北極振動にともなう大西洋上のブロッキングがシベリア大陸上に寒気を蓄積し、その後ブロッキングの後面にできた波列に伴って寒気が移流して東アジアに繰り返し低温偏差をもたらしている実態が明らかになった。こうした事例は冬を通してみられ、北極振動が日本の冬に寒気をもたらすプロセスとして注目に値する。本事例解析をもとに、過去にもこうしたプロセスの寒気移流が厳冬をもたらした年がないか、さらに詳細に検討を行った。
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