衛星海面高度計データ・再解析風応カデータなどを用いて、アラスカ湾西部で形成されるアラスカンストリーム渦の形成・伝播メカニズムを調べ、さらに衛星海面クロロフィルデータ解析により、渦の生物生産場への影響について検討した。 まず、アラスカンストリーム渦の形成域における風応力変動を調べ、アラスカンストリーム渦が負の風応力カールによるアラスカンストリームの不安定化で形成されることを示唆した。さらに渦伝播速度について詳細な解析を行い、アラスカンストリームによる移流の効果は小さく、地形性ベータ効果の寄与が大きいことを指摘した。 次に、アラスカンストリーム渦の海面クロロフィル濃度への影響を検討した。渦が存在する場合と存在しない場合の平均海面クロロフィル濃度分布図を作成したところ、渦が存在しない場合はクロロフィル濃度がアラスカンストリーム沿いのみで高く、北太平洋中西部沖合域では極めて低い値となった。これは過去の研究でも指摘されている北太平洋亜寒帯域の生物生産の特徴を示す結果である。それに対して渦が存在する場合のみで平均した場合、高クロロフィル濃度は北太平洋中西部沖合域においても観測され、アラスカンストリーム渦が沖合域での生物生産に重要な役割を果たしていることが示唆された。 個々の渦とクロロフィル濃度分布との関係を調べてみたところ、アラスカンストリーム渦の存在により高栄養塩・高クロロフィル濃度のアラスカンストリーム水が南方へ運ばれ、北太平洋中西部沖合域に高クロロフィル濃度をもたらしていることが示された。特に渦が南北に連なった場合、高クロロフィル濃度分布の南方への張り出しは遠方に及ぶことが分かった。
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