研究課題
電波掩蔽とは、探査機が惑星の背後に隠れようとする時に、探査機から送信されて惑星大気を通過したのち地球へ届く電波を調べて大気構造を研究手法である。ここでは月探査「かぐや」での電波掩蔽による月電離層の観測のために、電波経路上にある地球電離層の影響を補正する方法について研究を進めた。当初は、GPS/TECの緯度経度格子点へのマッピングデータを用いて地球電離層成分を除去する方針であったが、電波掩蔽による計測値とGPS/TECの格子点値は希薄な月電離層成分を取り出せるほどには良く対応しないことがわかった。そこで、「かぐや」の2機の子衛星を用いて、一方が月で掩蔽されているときにもう一方を地球電離層モニター用として、2機それぞれと地上局との間の電波伝搬によって計測される積分電子密度の差をとって月電離層の寄与を取り出すという方法を試みた。これは世界でも前例のない方法である。ただし、従来の1機による観測ではS帯、X帯という大きく離れた2つの周波数を使うことにより高い精度で積分電子密度を計測できたのに対し、今回の2機による観測では衛星の設計により周波数の近接した2つのS帯を使うことを余儀なくされたため計測のS/N比が悪い。これまでに20回ほどの観測を実施したところでは、ほとんどの観測結果において計測誤差を超える大きさの月電離層は確認できないが、月面の日照側の2例において有意と思われる電子密度増大が見られた。今後は解析手法に改良を加え、この結果の真偽を検討していく。
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Icarus 199
ページ: 286-294
Earth, Planets and Space 60
ページ: 387-390