本研究の目的は、日本のカルデラ火山周辺におけるカルデラ湖決壊による破局的な洪水流の発生過程、流れの状態、洪水の総流量とピーク流量、物質輸送量などを、堆積学的・地形学的検討に加え古水文学的解析に基づき明らかにし、「火山湖・火山ダム湖決壊シナリオ」を火山災害評価における新たな視点として提案するための基礎的データを構築することにある。本年度は、阿蘇4火砕流噴火以降(約9万年前以降)のラハール堆積物・洪水堆積物に着目した。阿蘇カルデラから流出河川の白川流域を調査地域とし、カルデラ内の湖成堆積物(古阿蘇湖・久木野湖・阿蘇谷湖堆積物)、流出河川侵食地形、下流の緩傾斜扇状地を構成する託麻砂礫層・保田窪砂礫層の調査を行った。託麻砂礫層の分布を把握し、堆積物の堆積相解析から、流れの状態を検討した。さらに流域に分布する巨礫の分布方向や粒径の測定を行った。その結果、含巨礫緩傾斜扇状地を構成する堆積物(託麻砂礫層)は、粒子濃集流(hyperconcentrated flow)から瞬時に堆積したことが明らかとなった。粒子濃集流相に見られる平行成層構造の個々のセットが厚いことは、流れ底部でのトラクションカーペットが厚く発達したことを示しており、掃流力の大きな流れであったことが考えられる。また堆積物に堆積間隙や水位低下、流路変更を示すような侵食面が認められないことは、洪水状態が比較的長時間継続したことを物語る。このような堆積物と地形の特徴は、現在の白川とその流域面積とは不調和である。そのため託麻砂礫層と扇状地地形を形成したのは、大規模な流量を有した巨大な洪水イベントであったことが考えられる。
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