本研究の目的は、日本のカルデラ火山周辺におけるカルデラ湖決壊による破局的な洪水流の発生過程、流れの状態、洪水の総流量とピーク流量、物質輸送量などを、堆積学的・地形学的検討に加え古水文学的解析に基づき明らかにし、「火山湖・火山ダム湖決壊シナリオ」を火山災害評価における新たな視点として提案するための基礎的データを構築することにある。本年度は、阿蘇カルデラから白川流域と十和田カルデラから奥入瀬川流域の、ラハール堆積物および洪水堆積物について検討を行なった。調査によって得られたデータから、カルデラ湖と決壊(せき止め)部の形状に基づいたダムファクターを用いた経験則とパラメータ解析、洪水巨礫粒径と堆積物の河川に対する横断面形を基にした流れのコンピタンス解析により、火山性決壊洪水の古水力学的・古水文学的特徴を明らかにした。また、堆積物の分布や、地図上と実測量に基づく地形データから、洪水イベントでの侵食・運搬・堆積量の見積もりを行なった。その結果、阿蘇カルデラと十和田カルデラを起源とするカルデラ湖決壊洪水のピーク流量がともに数万から数十万立方メートル毎秒以上となり、その流れにより堆積した土砂が1.5立方キロメートル以上と計算された。白川と奥入瀬川の流域にある緩傾斜扇状地や段丘などの地形と堆積物の形成が、現在の河川流量の数千倍・数万倍もの流量を持つ、ほぼ1イベントの大規模洪水に起因することが理解できた。
|