研究概要 |
本研究の目的は, 「温室地球」から「氷室地球」への転換点である始新世/漸新世境界(約3,300万年前 ; 以降E/O境界)付近で, 現在の海洋一次生産の25%以上を担う珪藻キートケロス属が渦鞭毛藻類に替わって沿岸生態系の主要な一次生産者と進化していった過程を解明し, さらに過去の地球環境変動が一次生産者や高次生物の進化に影響を与えた可能性を探ることである. そこで, 本年度はまず, これまで行ってきた北極海から採取されたボーリングコアサンプル(IODP302)の検討を行うとともに, 赤道大西洋域から採取されたアフリカ南東沖コアサンプル(DSDP Sites 366&369)を用いて, 珪藻, ナノプランクトン化石生層序によるコアの正確な年代を決定し, 各一次生産者プランクトン化石からこの地域の古環境変動を明らかにすることを目的とし, 研究を行った. 申請者は珪藻化石層序によるDSDP Site 366&369コアサンプルの年代の決定と, これまで明らかになっていない本調査海域の休眠胞子化石分類・生層序の確立・群衆変遷の解明を行った. また, ナンノプランクトン化石の分析は産業技術総合研究所の田中雄一郎博士が行い, 現在その成果を論文化し発表するための準備を行っている. これらの成果はこれまで正確な年代がわからなかった本コアの年代を, 珪藻・ナンノプランクトン化石を用いた複合年代生層序により決定しただけでなく, この時代に非常に狭い範囲で湧昇イベントが起きていたという新事実を明らかにした. また, E/O境界の前後で珪藻キートケロス属が急増している事実を突き止め, 本属が海洋一次生産者の中で重要な位置を占めるようになる過程を明らかにした.
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