研究概要 |
これまでに研究代表者は,蛍光試薬を使ってい孔虫細胞内のカルシウムスオン・pH環境を可視化する手法を確立した上で,有孔虫が行う石灰化の検討を行ってきた.有孔虫は単細胞でもあるにもかかわらず,複雑で精緻な殻を沈着するため,バイオミネラリゼーションを研究する上で興味深い研究対象である.まずは生きた有孔虫細胞内の微小領域におけるカルシウムイオン,pHの空間分布を特異的に染色する蛍光試薬を応用した観察する手法を確立し,殻構造の異なる有孔虫種を対象に観察を行った(Toyofuku et al., 2008 : de Nooijer et al. 2008).観察の結果,有孔虫は殻形成をしていないときでも,常に海水を飲み込み,カルシウムを含まない海水を排出していた.この観察からは有孔虫細胞がカルシウムを取り込んだ残渣を排出していることが示唆される.殻形成をいていないときには,細胞内のpHを低く保たれており,炭酸塩が自生しないように制御しているものと思われる.殻形成が始まると細胞内にpHの上昇が認められる.特に殻形成部位に特異的に高pH環境が観察された.高pHの部位では,海水中の重炭酸イオンを炭酸イオンに変え,石灰化を駆動していることが示唆される(de Nooijer et al., 2009).観察される細胞内環境の変化はガラス質有孔虫,陶器質有孔虫の間で,殻構造によらず類似であり,さらに多細胞生物(二枚貝,サンゴ)の石灰化過程にも共通する点が多数見られる.一方で,有孔虫の場合はカルシウムの貯蔵とpHの変化は細胞内の小胞が担っており,単細胞生物ならではの機構も明らかになった.今後は,カルシウムの局在やpHの細胞内分布がどのような細胞内小器官の働きによるのかについても検討をすすめ,有孔虫によるバイオミネラリゼーションを解明する.
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