本研究は、地球生物圏の構造、代謝、生理機能に本質的に関わるアミノ酸の立体異性体について、個々の異性体分子レベル安定同位体比(個々のD-体とL-体に対応した安定同位体比)を解析する方法を確立し、自然界の代表的試料の保有する情報を引き出すことを目的とした。その方法論を確立したことにより、従来のように試料をバルクで分析(全量分析)するよりも得られる情報量は遥かに多くなり、より本質的な議論が可能になった。当該年度は、真核単細胞生物から原核微生物の腐食連鎖および従属栄養メカニズムの具体的解明に向けて、アミノ酸分子レベルの窒素同位体組成を決める生理的要因と環境要因を検証した。特に、 (1) 独立栄養および従属栄養の微生物試料(核を持たない原核生物)の室内培養による評価(国際誌に投稿準備中)、 (2) 栄養段階などが明らかになっている水界生態学試料の評価(国際誌に受理)、 (3) 有孔虫化石などの海底堆積物に埋没した古生物試料の評価(国際誌に投稿中)、 (4) 地球極限環境、地球内部試料に含まれる固体試料の評価を行った(国際誌に受理)。 (1)-(4)に加えて、(5)窒素同位体でラベルした基質から、微生物の代謝系を解読する作業を行なった。また、岩石試料や考古学試料、古生物試料など分析時に除去しなければならないマトリックスから、目的の生体分子を精製する分析法を新たに開発した。その方法は、化学処理による同位体分別が無いことから、様々な地球化学試料や生物試料に応用が可能となった(国際誌に投稿中)。
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