次世代省エネルギーデバイスとして期待されている炭化ケイ素半導体に対してイオン注入と同時にアニール処理を行えるパルスイオン注入の実証実験を行うためには、高純度の大電流パルス重イオンビームが必要である。本研究の目的は、ビーム純度の向上が可能な両極性パルス加速器技術を確立し、パルスイオン注入の実現に向けた知見を得ることである。昨年度の研究により、イオン電流密度は目標値には達しなかったが、特定のイオン種のみが加速されていることがわかり、パルス重イオンビームの多段静電加速を実証することができた。今年度は、ビーム電流の増加、ビーム純度の測定、照射実験を行った。 まず、イオンビーム電流の原因と対策法を検討するために、負荷としてイオンダイオードを用いたときの両極性パルス電源の特性を評価し、電源の高出力化を行うために装置の改良を行った。その後、パルスイオンビームの特性を再評価した結果、イオン電流密度は向上したが、ビーム純度は約95%で目標値に達しなかった。この原因として残留ガスや電極等の付着ガスがビーム純度に及ぼす影響が考えられる。次に、パルスイオンビームの照射効果を検証するためにガラス基板上に生成されたアモルファスシリコン薄膜にイオンビームを照射した結果、アモルファス薄膜が多結晶化しており、アニール効果があることが確認できた。今後、真空に影響を及ぼさないような電極材料を選んだり、真空ポンプの性能を向上させたりして真空度の改善を行い、イオン電流の空間分布やビーム発生の再現性等のビーム品質を評価して動作パラメーターの最適化を行う必要がある。 炭化ケイ素半導体に対してn型ドーパントとして機能する窒素イオンビームについて照射実験を行ったが、今後のパルスイオン注入実験に向けてp型のドーパントとして機能するアルミニウムイオンビームが必要となるので、そのイオン源の開発も行った。
|