研究概要 |
大気化学反応と深い関わりがある空気/硫酸水溶液界面構造を分子動力学シミュレーションを用いて解析した. また, 界面構造に敏感である振動和周波発生スペクトルを分子シミュレーションによって第一原理的に計算し, 実験との比較を行った. 分子シミュレーションによって振動スペクトルを計算するためには, 電子状態計算を用いた高精度分子モデリングを行う必要がある. 初年度は, 硫酸水溶液を構成する分子(水, ヒドロニウムイオン, 硫酸イオン, 重硫酸イオン, 硫酸分子)の分子モデリングを行い, バルク, 界面の性質をよく再現するモデルの構築に成功した. さらに, そのモデルを用いて比較的低濃度の硫酸の和周波発生スペクトルを計算し, 実験をよく再現することが分かった. 低濃度硫酸水溶液に対する和周波発生スペクトルは純水のスペクトルと比べるとかなり大きな変化を受けることが知られているが, それがどのような表面構造に起因しているのかは明らかではなかった. 本研究の結果によると, 低濃度の硫酸水溶液表面には解離イオンによる比較的強い電気二重層構造が形成されることが分かった. その影響を受けて表面水分子は配向し, 和周波発生スペクトルに大きな変化を与えることが分かった. 従来の実験による研究では水溶液表面でイオンがどのように分布しているか明らかではなかったが, 本研究により硫酸の場合には表面第一層にカチオン, 表面数層の深さにアニオンが分布していることが明らかになった. 以前の塩酸の計算結果を踏まえると, これは比較的低濃度の強酸に特有のイオン分布であり, 大気反応モデルの構築に有益な情報を与える.
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