研究概要 |
プロトンはその軽さ故に量子効果が最も効く原子であり、最も同位体の質量比が大きな原子でもある。同位体効果は核の量子効果、つまり「粒子性と波動性」の2重性を適切に取り扱うことで理解される。分子はゼロ温度においても静止しておらず、零点振動をしている。これは最も基本的な量子力学的効果である。しかし、動的な現象を解析するために現在広く行われている分子動力学計算では、核の運動は古典力学を用いて記述しているため、核の量子効果については範疇外であり、FTIRやラマン等の振動分光で捉えられる分子内振動すら適切に取り扱う事は出来ない。そこで、我々は準量子キュミュラント動力学法を提唱した。静的な理論として、量子論的な拡張変数を導入した、ポテンシャル超曲面解析による量子トンネル経路の探索や、基準振動解析の確立、また動的な理論として、核酸塩基対の水素結合における軽水素と重水素置換体の動力学的安定性(量子動的同位体効果)を解析する方法論を確立した(Shigeta, et.al. Bull. Chem. Soc. Jpn. 81, 1230(2008))。この手法では、古典的な座標ばかりではなく、量子論的なゆらぎ(古典座標からのズレ)も同時に評価している。そこで得られた情報から、密度分布を計算するための手法を提案した(Shigeta, J.Cheln. Phys.(Communication)128, 161103(2008))。今後この手法は、前述した水素の密度分布の決定にも適用可能であり、本年度はその基礎理論を構築したこととなる。 今までの業績と本年度の業績に関して、第58回日本化学会進歩賞(課題名「量子ゆらぎと熱ゆらぎの動的分子理論」)を受賞した。
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