研究概要 |
プロトンはその軽さ故に量子効果が最も効く原子であり、最も同位体の質量比が大きな原子でもある。同位体効果は核の量子効果、つまり「粒子性と波動性」の2重性を適切に取り扱うことで理解される。分子はゼロ温度においても静止しておらず、零点振動をしている。これは最も基本的な量子力学的効果である。しかし、動的な現象を解析するために現在広く行われている分子動力学計算では、核の運動は古典力学を用いて記述しているため、核の量子効果については範疇外であり、FTIRやラマン等の振動分光で捉えられる分子内振動すら適切に取り扱う事は出来ない。これまで我々は、準量子キュミュラント動力学法を提唱した。静的な理論として、量子論的な拡張変数を導入した、ポテンシャル超曲面解析による量子トンネル経路の探索や、基準振動解析の確立、また動的な理論として、核酸塩基対の水素結合における軽水素と重水素置換体の動力学的安定性(量子動的同位体効果)を解析する方法論を確立してきた。平成21年度は人工核酸塩基の安定性解析(Matsui, J. Phys. Chem. B 113, 2790(2009)等)、核酸誘導体の溶液内電子移動反応解析を行った。その成果は文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞するなど、化学の分野で注目された。
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