(1)過剰電子移動に及ぼすDNA局所構造変化の影響 DNA内過剰電子移動に及ぼす二重鎖安定性の影響を調べるための反応系構築を行なった。光誘起一電子還元剤としてジアミノスチルベンを選択し、そのホスホロアミダイト誘導体を合成することによりDNA鎖内への導入を試みた。温和な酸化条件で合成したDNAは目論見通りヘアピン型二重鎖を形成した。過剰電子移動反応プローブとして5-ブロモウラシル(BrU)、も同時に挿入した。BrUは移動電子との反応により脱ブロモ化し、DNA切断を誘起することから、反応生成物を定量することで過剰電子移動反応効率を決定することができる。合成したヘアピンDNAへの光照射により、過剰電子がDNA内に効率良く注入されることを、蛍光寿命測定ならびにポリアクリルアミドゲル電気泳動法を用いた生成物分析により明らかにした。また電子移動効率は、二重鎖構造の安定性と相関があり、さらに塩基配列にも依存することが示唆され、本プローブがDNA内電子移動に及ぼすミスマッチ塩基対の影響を調べるための良いモデル化合物であることがわかった。 (2)時間分解分光法による過剰電子移動の直接観測 ラジカルイオン中間体の挙動観測をナノ秒領域で行うために、上記で合成した試料に対してDNAの吸収波長とは異なる波長(355 nm)でレーザー励起を行い、生成するラジカルイオンのスペクトルを分析した。ナノ秒領域で減衰するジアミノスチルベン由来の吸収が観測されたことから、今後測定条件を変化することにより、電子移動反応速度を見積もることができると予想される。
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