本研究は原子・分子レベルで有機分子吸着構造を制御し、同系をフェムト秒時間スケール及びナノメートル空間スケールで電子状態を説測することにより、励起電子溶媒和現象や電子伝達機構を明らかにすることを目的としている。具体的には、走査トンネル顕微鏡・トンネル分光法(STM/STS)により、ナノメートル空間スケールにおいて吸着構造と電子状態を観察・計測した後、同系に時間分解2光子光電子分光法(2PPE)を適用して励起電子ダイナミクスの挙動を追跡する。 今年度は時間分解2PPEおよびSTM/STS実験開始を目指して測定系を整備すると同時に、ナフタレン分子による規則構造を金属表面上に構築し、その構造をSTMと低速電子線回折を併用しながら同定した。この系は吸着量・基板温度に応じて数種類の規則構造を有することを明らかにした。飽和吸着層では一次元整列構造を取ることが判明したため、次年度以降ではこの系について時間分解2PPE測定を行う予定である。STM測定系では信号強度を改善するために新たな電流増幅装置を用いて測定系を整備したところ、ノイズ軽減が見られたため次年度予定のトンネル分光測定で有効になると考えている。2PPE装置については遅延光路の建設などを行い、時間分解測定のための準備を推進した。既存のチタンサファイヤレーザーでは40フェムト秒までのパルス圧縮が実現し、時間分解測定が行える十分な性能を得られつつある。今年度得られた新たな知見については国内外の学会で報告したほか、論文として発表するために準備を行っている。
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