本研究は固体表面上に極性分子による規則構造を構築し、その電子状態をフェムト秒時間スケールで追跡することにより、励起電子が緩和(溶媒和)していく機構を明らかにすることを目指している。また原子・分子レベルで規則構造を観察し、同時にその電子状態を局所プロープ分光で計測することにより、マクロスケールで見た電子状態とナノメートルスケールで見た吸着構造・電子状態についての相関を明らかにすることも第二の目標としてきた。具体的には、励起電子ダイナミクスを時間分解2光子光電子分光法(2PPE)で、ナノスケールにおける吸着構造と電子状態は走査トンネル電子顕微鏡・トンネル分光法(STM/STS)を用いて明らかにした。時間分解2PPEについては、既存のフェムト秒レーザーに関してパルス圧縮を行ったのち光源とした。電子状態が既知であるフタロシアニン吸着系の非占有準位について時間分解分光を行い、非占有準位が有意の寿命をもって緩和していく様子を確かめることが出来た。加えて、22年度後期にはフリッツハーバー研究所(ドイツ・ベルリン)に派遣研究員として滞在する機会を得たため、共同研究を行うことが出来た。具体的にはCu(111)表面上に吸着した、水、ピリジンなどの極性溶媒吸着系について溶媒和電子の寿命を計測し、励起電子のダイナミクスの計測をおこなっている。吸着構造については、通常のSTM観察に加え、トンネル分光の一種であるzV計測(電圧-距離計測)を行った。この手法ではフィードバックを加えたままトンネル電流を抑えて計測できるため、有機分子吸着系では非破壊かつ高バイアス領域まで安定に電圧掃印できる利点がある。ナフタレン吸着系では特定の吸着超構造に由来する非占有準位や鏡像準位を検出することができ、2PPEで計測された準位と良い一致が見られた。これは電子状態と吸着構造との相関を解明できる手がかりとなると考えている。
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