研究概要 |
本研究では,ビームラインを液体窒素で冷却可能な静電型イオン蓄積リングにより炭素クラスター負イオンを周回させる。黒体輻射による'光'電子脱離と残留ガスとの衝突により中性化した炭素クラスターを検出することで炭素クラスター負イオンの寿命のサイズ・温度依存性を測定し,クラスターの冷却過程を追跡することを目的とする。また星間分子として注目されている炭化水素負イオンもイオン源から引き出すことが可能だとわかり,この負イオンも標的に加え研究を進めている。 今年度は,周回している4量体の炭素クラスター負イオン(C_4^-)にレーザーの波長を450~1000nmの範囲で変化させ合流実験を行った。負イオンの励起状態とのエネルギー差に対応する波長の光を照射した場合,共鳴的に光吸収が起こる確率が増大し,それに伴って生成する中性粒子の収量も増大する。従って,レーザーの波長に対して生成した中性粒子の収量をプロットしたものは負イオンの吸収スペクトルに対応する。また輻射冷却による効果を調べるため,この吸収スペクトルの蓄積時間依存性を調べた。実験の結果,遅延過程を経て中性化した粒子を捉えることができた。この中性粒子からの信号は負イオンがリング内を1周周回した時のみ観測され,1周目以降は残留ガス衝突の信号に埋もれ検出できなかった。炭素クラスター負イオンの周回時間が数十μ秒であることから,この負イオンの励起状態の寿命もオーダーであることが示唆される。この波長依存性については波長が長くなるにつれて信号強度が急速に減少した他,特に顕著な構造は見られなかったものの600~700nm付近でプラトーが現れた。また,蓄積時間が長くなるにつれて信号強度が減少していくことがわかった。今後,他の負イオン種についても系統的に実験を行う予定である。
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