1. 赤外キャビティリングダウン分光法によるOH、NH伸縮振動の観測、及び量子化学計算による構造最適化と基準振動解析を行うことで、ピロール分子を溶質とした溶媒和クラスターの水素結合構造の解明を行った。水やメタノールなどの水酸基を有する分子との1:1クラスターでは、低波数シフトしたピロールのNH伸縮振動が観測され、そのシフト値と溶媒のプロトン親和力に相関が見られた。従って、この水素結合構造はNH基が供与体であるσ型であると結論した。メタノールとの1:2クラスターでは計算により3種類の安定構造が得られたが、実測の赤外スペクトルを再現したのは直鎖型のメタノール2量体がピロールのNH基とπ電子に水素結合したσ-π型は橋架け構造のみであった。これらの結果については、既に論文に掲載された。最近では更に、アセトン等の非プロトン性分子との溶媒和構造の解明も行っており、プロトン性分子が形成するネットワーク構造とは異なる新奇な分子間相互作用が解明されつつある。 2. 赤外キャビティリングダウン分光法と密度汎関数計算により巨大アンモニアクラスターの水素結合構造の解明を行った。クラスターサイズをn=100→700と増加させた時、モード3のバンド幅の狭まり(38→17cm^<-1>)が観測された。結晶モデルクラスターの振動計算を行った結果、クラスターの表面、及び内部にあるアンモニアのモード3は、各々サイズ増加に伴い低波数、高波数シフトを示し、双方が凝集系結晶の振動数に収斂した。従って、赤外スペクトルに観測されたモード3の狭帯化は、結晶類似の水素結合により形成されたクラスターのサイズ増加に由来するものと結論した。上記の溶媒和クラスターでは、未だ溶媒数が数個と小サイズであり、本研究課題の巨大水和クラスターには程遠いが、単成分で1000量体に近い巨大クラスターの生成と分光が行えたことは大変意義がある。
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