NMRは他の分光法と比較して感度が著しく低いため、それを向上させる方法の開発が求められている。感度向上の一つの方法は磁場の強磁場化であり、例えばハイブリッド磁石は極めて高い磁場を提供する。しかし、その磁場は揺動しているため高分解能測定はできず、磁場の揺動を除去する方法や高速測定を行うスキーム等の開発が必要である.また、核スピンが1を超える四極子核では感度を簡便に向上させる方法としてQCPMG法があり、半整数核スピンの四極子核のNMRでは多用されている。しかし、スピン1の核では、基礎的な手法は開発されているものの、核四極相互作用のみを考慮しているため、その他の大きな相互作用がある系には適用できない。本年は、核四極相互作用に加えて大きなシフト相互作用がある場合にQCPMGによる感度向上を可能とする方法の開発を行った。シフト項による磁化のdephaseを補正するために180°パルスを追加するパルスシーケンスを考案した。このシーケンスでは、理想的なパルスを照射すれば、完全なエコーが得られQCPMGが可能になる。そこで本研究ではサンプルコイルとして小径コイルを取り付けることにより、強いラジオ波パルスを照射した。本法の有効性をモデル化合物の常磁性CoSiF_<6.>6H_2Oの^2H NMRで実証した。この化合物ではCo^<2+>イオンによる大きな常磁性シフト相互作用が^2H NMRに寄与するため、通常のQCPMG法で測定を行うと位相のずれたスペクトルしか得られなかったが、本法の適用により、解析可能なスペクトルを取得することができた。
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