初年度は主に合成研究を行った。(1) 他の芳香族分子を組み込んだフタロシアニン類縁体ではフタロシアニンのイソインドール環を一カ所あるいは二カ所アザフェナレン環に置き換えた類縁体を合成し、同定を行った。これらの分子では環外周部にナフタレンユニットを有しているにもかかわらず、基本的にはフタロシアニン特有の芳香族性を維持していることを見いだした。またこれらの分子ではアザフェナレン環の数や位置により可視領域の吸収が長波長にシフトしており、これが理論計算からナフタレン環の縮環によりHOMOが大きく不安定化されることに起因することを明らかにした。現在7員環構造を中心に有した類縁体の合成に研究を展開している。(2) π共役によるフタロシアニン集合体ではピレンにより連結された2量体の合成に成功した。この分子は可視領域に非常にブロードな吸収を示したが、これは隣接したフタロシアニン同士が弱く相互作用することで生じた複数の軌道間の遷移によるものであり、現在同定及び物性解明を行っている。またジシアノフタロシアニンの合成反応において系中に存在するフタロシアニンのベンゼン連結型の多量体の分離を試み、4量体までの分離に成功した。まだ溶解性が低いことや精製が不十分であるためにNMRスペクトルなどは測定できていないが、4量体はフタロシアニン多量体としてはこれまでに報告されている中では最大である。(3) 超分子相互作用によるフタロシアニン集合体では研究計画にはまず水素結合を用いると提示したが、初年度は研究の取りかかりとして予想のより立てやすい金属配位を用いることにした。ジシアノフタロシアニンをアミノピリジンと反応させることで環外周部に配位部位を有する分子を合成した。カドミウムやマンガンとの反応から2量体の生成を示唆する質量分析の結果を得た。現在さらに合成条件等を検討している。
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