研究概要 |
これまでに,3,6-ジアリール-1-メチルチオ-1,3-ヘキサジエン-5-イン化合物においてヨードベンゼン誘導体生成反応について明らかにし,光照射下でのヨウ素滴下により収率が向上することを見いだした。当該年度では計算手法による解析結果に基づく反応性の検討と,新たな反応の開拓について検討した。 半経験的分子軌道計算の結果,これまでに環化反応が進行している化合物群は2つの二重結合間の二面角が90度に近いことが示された。二面角が90度となると予想される(1E)-2-メチル-1-メチルチオ-3,6-ジフェニル-1,3-ヘキサジエン-5-インとヨウ素との反応の結果,環化反応は進行せず光照射することで低収率ながらヨードベンゼン誘導体の生成が確認された。1位にメチル基を有する化合物ではE体でも反応が進行することから,二面角のみならず主鎖に対して1位のcis位への置換基導入が環化反応に重要であることを明らかにした。 さらに,上記主構造の3-4位間の二重結合を単結合へと変化させた化合物(1-メチルチオ-3-トシル-1-ヘキセン-5-イン)の反応性について検討したところ,ヨウ素による三重結合活性化を経た環化反応の進行が見いだされた。この反応では,活性化された三重結合の反応部位が1位の炭素原子ではなく,メチルチオ基の硫黄原子となっており,ヨウ素化された3,4-ジヒドロ-2H-チオピラン誘導体が得られた。末端の三重結合にフェニル基を導入するとチオピラン誘導体が得られないことから,三重結合に導入された置換基の大きさによって反応部位が変化することを示唆する結果を得た。また,3-(アリールアミノ)アクリル酸誘導体とヨウ化水素との反応を検討した結果,エナミン部位のプロトン化による活性化を経た新規ジヒドロキノリン生成反応が進行することを見いだした。本反応では,環形成に伴って2つの炭素-炭素結合の形成が関与しており,多重結合の活性化によってより複雑な反応系の開拓に成功した。さらに,生成物であるジヒドロキノリン誘導体が蛍光発光性を示すことから,機能性材料への展開も期待できる。
|