研究概要 |
本研究は, 15族元素であるリンの特異な構造特性・電子構造に注目し, 新たな機能をもつπ共役分子群の創製を目指すものである. この目的を達成するための新たなπ共役骨格として, 含リン縮合多環式化合物であるホスホリル架橋スチルベンを設計した. 強い電子求引基であるホスホリル基((P=O)R)をスチルベンの架橋部位として導入することで, 単にπ電子系を共役の拡張に有利な平面構造に固定化するだけでなく, 高い電子受容性を付与することができると期待され, π電子系の新たな基本骨格としての潜在性を十分に備えていると考えられる. 平成20年度では, まず, ホスホリル架橋スチルベンおよびその誘導体の一般的合成法の確立と, この骨格を容易にかつ一般性の高い方法で作り上げるための新たな反応の開拓に取り組んだ. リン置換ジフェニルアセチレン類を基質とする新たな分子内連続二重環化反応を見いだした. 反応条件の最適化をおこなった結果, 本反応においては, PCl_3の添加が極めて重要であることを明らかにした. さらに, 本反応を一般化することで, ベンゼン環以外の複素環の縮環したさまざまな誘導体, ならびに3位に官能基を有する種々の2-アリールベンゾホスホール類の合成にも拡張可能であることを見いだした. 上記の方法により合成した一連のホスホリル架橋スチルベンの光学特性の評価をおこない, これらがリン上の立体化学に関係なくストークスシフトが大きく極めて強い水色蛍光を示すことを明らかにすると共に, リン上の酸化数と母骨格がその発光特性に大きく影響を与えることを示した. さらに, 異なる架橋元素を有する類縁体との基礎物性を詳細に比較することで,ホスホリル基の電子効果を明らかにした. また, 電気化学特性についても評価をおこない, これらがホスホリル基の電子求引性に起因して高い電子受容性を有することを示した.
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