光エネルギーを電気・化学エネルギーへ効率的に変換させるには、長寿命の光誘起電荷分離状態を有する分子システムの構築が重要と考えられる。本研究では、分子構造変化を利用した系や三重項励起状態を利用した系を用いて電荷分離状態の長寿命化を検討している。特に、三重項励起状態を利用した系では、電子移動によって生じると予測される三重項電荷分離状態において、その逆電子移動過程が禁制遷移となることから長寿命化が期待される。具体的な分子システムとしては、光増感部として常温燐光発光錯体である白金錯体、電子供与部としてジアニシルアミン、電子受容部してナフタルジイミド、連結部としてフェニレン架橋を用いた分子システムを設計・合成した。どの錯体も光励起することで、高い量子収率で電荷分離状態が生成していることを各種測定により明らかにした。その電荷分離状態の生成速度ならびに寿命は連結部によって制御可能であることが分かった。特に、電子供与部側の連結部にテトラメチルビフェニルを導入した系で1μs以上の寿命を有する長寿命電荷分離状態の発生に成功し、その量子収率は98%と高効率で起こっていることを明らかとした。また、時間分解ESR測定の結果と電荷分離状態の寿命の磁場効果から、当初目的にしていた三重項状態の電荷分離状態であることも明らかとした。本実験結果によって磁場による電池効率の向上や、スピン制御された電流出力を有するような太陽電池の構築が期待される。
|