一酸化窒素(NO)が関与する生理機能をより詳細に研究するためには、時空間的に制御された発生を可能にする光NOドナーが有用である。本研究では、種々の9-ニトロアントラセン誘導体を合成し、その光NO発生に関する機構や効率を調べた。極低温マトリックス単離法を用いて光反応を追跡したところ、亜硝酸エステル体を経由してオキシラジカル体とNOに分解する様子が観測された。また亜硝酸エステルとオキシラジカル+NOには光化学的な平衡反応が存在することも判明した。ジニトロアントラセンでは明確な中間体を与えずに、直ちにNOとアントラキノンを与えることも分った。一方、室温溶液中のニトロアントラセン誘導体の光反応をグリース試薬によるNO捕捉実験、絶対量子収率測定、NMR分析によって調べたところ、NO発生と共にビアントロン体、アントラキノンおよびオキシム体が生成され、その際の分解率は導入される置換基の電子吸引性が高くなるほど増大することが分った。これは、電子吸引性の増大によりニトロ基とアントラセン平面の二面角が増大し、亜硝酸エステルへの転位速度が増大したことによると結論された。
|