本研究の目的は、配位子交換反応を反転メカニクスとして取り入れた刺激応答性金属錯体ネットワークの構築である。本年度はこのピリジルピリミジン骨格をもちいて反転挙動のON/OFFができる構造を探索した。環状配位子、反転部位への長鎖アルキル基や芳香族炭化水素等を検討した結果、アントラセン骨格を回転障壁とした分子構造を組み立てることで、-40℃程度で動きの凍結ができることを見出した。さらに、この動きがON/OFFできることと、電子移動現象がシンクロすることを実証するために、化学酸化還元過程と、温度昇降の組み合わせによって、反転過程でゲートされる溶液の電位変化を検出することに成功した。また、2座リン配位子とピリジルピリミジン骨格の組み合わせによって銅(I)錯体の発光を発現させ、これらの反転異性体においてその発光波長、寿命が異なることを見出した。特に、異性体のうち片方のみ発光に強い温度依存性が見られることを見出した。この反転プロセスを支配する要因について検討した結果、アニオンとの静電相互作用と立体反発のバランス、反転中間体におけるアニオンや溶媒配位の過程などの溶液プロセスが強く関わっていることが示唆された。今年度において示した電位変換と発光挙動の違いは、分子における電子移動過程や、励起状態の発展プロセスを、マクロな手法ではなく、設計とON/OFF制御可能な分子操作の手法で取り扱うことができるという、広く適用できる新しい概念を示していると考えている。
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