種々の形式でメカニカルな動きをする分子が提案されているが、その動きを他のシグナル形に変換する分子プロセスは、生体系では見られるものの、シンプルな人工系の組み立てというアプローチからは未開拓である。本研究の目的は芳香環の回転というメカニクスを限られた空間内で、電子移動現象と相関させて行うことで、あらゆる分子物性の鍵となる電子配置変換を達成することである。 前年度までに回転するピリミジンを配位子としてもつ銅錯体とフェロセンの接合系において、回転に相関した電子移動が起こることを実証している。本年度はフェロセンに変えて接合部位の共役が強いと予想できるルテニウム-アセチリド部位を連結した2中心アレイの中心間の電子移動現象について検討した。この錯体において、電荷移動平衡となりうるCu(II)/Ru(II)-Cu(I)Ru(III)の価電子状態で。ピリミジンの回転による異性体は等エネルギー的に存在し、双方向に変換可能であることが分かった。室温で酸化中心はどちらの回転異性体もRu(III)と解釈できるが、温度低下による電荷の振る舞いは全く異なり、(a)酸化中心がRu(III)に局在したまま(b)銅中心とルテニウム中心を平衡的に移動できるという二中心間の電荷移動平衡に関する明瞭な違いが見られた。これらの回転・電子の動的過程はアニオン添加によって可逆的にロックすることも可能である。 また、単核銅錯体の骨格構造を検討することで光励起状態を長寿命化し、光による回転駆動を試みた。光電子移動過程による過渡的な酸化状態を利用することで、光エネルギーによって回転を駆動し、非平衡状態のトラップとそれに伴う酸化電位のシフトを検出することに成功した。 さらに、ピリミジン反転機構をもつ銅錯体を電極表面に固定化し、界面でも酸化還元電位をシフトを伴う回転ダイナミクスが存在することを明らかにした。
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